01.4.02 副代表について

グループホーム「ソラノサト」は、田んぼに囲まれたのどかな場所にあります。
風が吹くたびに稲の葉がさわりと揺れ、その音が心をゆるめてくれるようです。

近くには小学校があり、休み時間になると、運動場から子どもたちの元気な声が聞こえてきます。
静けさの中に、日常のあたたかい音がぽつぽつと混ざり合う——そんな場所です。

玄関の扉を開けると、生活音がやわらかく広がるホールが迎えてくれました。
職員さんの「おかえりなさい」という声、利用者さんの笑い声、
それぞれが自然にそこにあり、まるで長く続いてきた家族の暮らしをそっと覗かせてもらっているような感覚になります。

ほどなくして、落ち着いた笑顔の女性が現れました。
副代表であり、「多機能事業所ここに」の施設長でもある——熊谷真奈美さんです。

お茶が湯気を立てるテーブルに向かい合いながら、
ソラノサトが生まれた経緯と、熊谷さん自身の歩みについて、ゆっくり話を聞かせていただきました。

まず、福祉の道へ進むきっかけを教えてください。

高校卒業後、地元の“さくらの百貨店”で働き始めました。毎日訪れるおばさまや、少し厳しめのお客様の対応をしながら、接客の世界を知っていきました。
ある日、自閉症のお客様が来店されて——「お母さんの誕生日プレゼントを買いたいんです」と話してくれたんです。
私に質問し、何度かオウム返しをしながらプレゼントを選んでいく姿が、とても丁寧で、まっすぐで。
購入したあと
「お母さんが好きだと思います。買えました!」
と、とても嬉しそうに帰っていかれて。
あの瞬間、胸の奥がじんと温かくなりました。
純粋な気持ちに触れられた喜びがあって、「もっとこんな場面に関わりたい」と思ったことが、福祉への入り口だったのだと思います。

“最重度の利用者さんを受け入れる”という決断は、簡単ではなかったはずです。

最初は、まったくそのつもりはありませんでした。
ですが、相談員さんやご家族、ご本人のお話を聞くうちに——そのままではいけない、と感じるようになりました。
支援の難しさ、地域での暮らしにくさ。
そして、お母様が涙ながらに話してくださった姿が、頭から離れなくなったんです。
“もし自分だったらどうだろう”と考えるほどに、胸が締めつけられました。
だからこそ、
「受け入れなくては」
「環境を整えなければ」

という気持ちが強くなったんです。
“ここに、あなたの居場所があるよ”
その言葉を守りたい。
それが私の覚悟になりました。

代表との出会いについて教えてください。

初めてお会いしたとき、優しい表情と声の方だな、という印象でした。
利用者様の相談員さんとして関わっていた姿に“揺らがない誠実さ”を感じたんです。
数回お会いして話していくうちに、
「この人なら、私が思う理想の福祉を実現してくれるのかもしれない」
と感じるようになりました。
揺れず、誤魔化さず、まっすぐに利用者さんと向き合う姿勢。
あの姿を見て、“この人と一緒にやりたい”と心から思いました。

グループホーム「ソラノサト」をつくると決めたのは、どんな思いからでしたか?

「ここに」の利用者さん、ご家族と接する中で、いつか必ず“安心して暮らせる場所”が必要になると感じていました。
安心できる場所はどこにあるのか。
同じ気持ちで寄り添ってくれるグループホームはあるのか。
ずっと考え続けていました。
そんな時、理事長がふっと
「じゃあ、つくろう」
と言ってくれたんです。
その言葉が、すべてを動かしました。
相談員さんたちを訪ね歩く中で
「陽だまりさんなら…」
「ここにさんなら…」
と、温かい言葉をたくさんいただいて。
その言葉が背中を押してくれて、ソラノサトは生まれました。

最後に「これからのやまねこ」について教えてください。

やまねこは、これからも“安心感と温かな色に包まれる場所”でありたいと思っています。
同時に、楽しさも、専門性もある支援を目指しています。
“ここにおいで”
“ここに居場所があるよ”
その言葉を、これからも届け続けたいです。
私がこの仕事を続ける理由は、
どの方にも“自分らしい”を見つけてほしいから。
ただ、すべてをそのまま出すと困ってしまう場面もあるので、
その“ほんの少しのお手伝い”がしたいんです。
ご家族の笑顔や「ありがとう」の言葉に、何度も力をもらってきました。
まだまだ、やりたいことがたくさんあります。
それを一つずつ形にしていきたいですね。